天童荒太『昭和(レトロ)探偵物語 平和村殺人事件』感想|重厚作を期待すると戸惑う一冊

天童荒太といえば、『永遠の仔』や『悼む人』に代表される、重厚な人間ドラマを思い浮かべる人が多いだろう。人間の深淵、逃れられない宿命、痛み、そして魂の救済。そうした重いテーマを、身を削るような熱量で描き切る作家であり、読むたびに強く引き込まれてきた。

その印象を抱いたまま本作を手に取ると、正直なところ拍子抜けするかもしれない。『昭和(レトロ)探偵物語 平和村殺人事件』は、天童荒太らしい重さや切実さを期待すると、物足りなさを感じやすい作品だった。

近作の『巡礼の家』や『青嵐の旅人』も比較的マイルドな時代小説だったが、個人的には『家族狩り』のように、読む側の体力を奪っていくほどの厳しさを、またいつか見せてほしいという思いが残っている。

目次

物語のあらすじ

主人公は、ギターを背負って各地を巡る“流し”の青年だ。鋭い観察眼と論理的な思考力を持ち、旅先で起こる出来事に関わっていく存在として描かれている。横溝正史の金田一耕助へのオマージュとして設定されたキャラクターとのことだが、個人的には、その狙いは理解しつつも、強く印象に残る存在とまでは感じられなかった。

舞台となるのは、「平和村」へと改称されようとしている因習深い村、尽忠村(じんちゅうむら)。戦後の民主化や平和への流れ、そしてアメリカ側の意向も絡み、村のイメージ刷新を目的とした式典が企画される。その裏側で、新人女優のPRを兼ねたイベントが行われ、やがて連続殺人事件が発生する。

流しの青年が警察とともに事件の謎を追うという筋立てで、古き良き、あるいは暗い昭和の風俗、戦争の傷跡が残る村の人間関係、そしておどろおどろしい連続殺人が描かれていく。

殺人事件よりも、昭和の記憶

殺人事件を扱った物語として見ると、ストーリーやキャラクターに強い面白さを感じたわけではなかった。

とはいえ、本作に魅力がまったくないわけではない。物語全体に、昭和の風俗や空気感が濃厚に描き込まれており、そこには確かな味わいがある。読み進めるうちに、ふと懐かしさを覚える場面も多かった。

50歳の自分にとっては「ど真ん中の世代」というほどではなかったが、北島三郎の「帰ろうかな」をはじめとする昭和歌謡の描写もあり、60代、70代の読者であれば、より強い郷愁を感じるのではないだろうか。昭和生まれの私自身も、次のような描写には思わず引き寄せられた。

  • ココアシガレット
    タバコの「ピース」を模して作られた駄菓子として登場する。子どもの頃に自分も手にしていた記憶がよみがえり、時代の空気を身近に感じさせる描写だった。
  • 蒸気機関車(SL)
    まだ電化されていない路線を走るSL。その煙や匂いの描写が、昭和ならではの旅情を色濃く伝えてくる。
  • ちんどん屋
    派手な衣装と楽器の音で街を歩く人々として描かれ、その描写を通して、子どもの頃に「ばか、まぬけ、ちんどんや」と口げんかの際に言っていたことを思い出した。

天童荒太に求めてしまうもの

どうしても比較してしまうのが『悼む人』だ。亡くなった人を、肩書きではなく「誰に愛され、誰を愛したか」という一点で悼む。その行為の尊さと、遺された人々の深い悲しみに寄り添う静謐な筆致は、読む側の魂にまで触れてくる力を持っていた。

主人公・静人が見せる、他人の痛みを自分のことのように背負う姿は、「共感」という言葉の極致だったと思う。あの感覚は、簡単には体験できないし、正直しんどい。しかし、そのしんどさごと、緻密でドラマチックに書き切ってくれるところに、天童荒太という作家の真骨頂があった。

その体験を知っているがゆえに、本作は少し物足りなく、残念に感じてしまった。

とはいえ、作者自身が「ずっと書きたかったものを、楽しく書けた」作品であるなら、それもまた一つの天童荒太だろう。重く、厳しい物語だけがすべてではない。

ファンとしては、どんな作風であっても書き続けてくれること自体を、静かに応援したい。そんな気持ちで本書を閉じた。

天童荒太『昭和(レトロ)探偵物語 平和村殺人事件』
総合評価
( 1.5 )

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